古民家園内では現在、建物の保存活用を目的に移築復元工事を行っています。平成27年4月から始まった復元工事も終盤に差し掛かっており、外壁の漆喰塗装の様子を講師の説明とともに見学しました。
構造形式:木造、3階建、置屋根瓦葺、妻入、桁行2.5間、梁行2間、1階床面積:16.52㎡
江戸時代末期から明治時代初期までに建築が推定される土蔵造、主家から出入りできる内蔵様式
建築当初は、置屋根、漆喰の土蔵であったが、戦災により土壁が壊れ、屋根・外壁は大谷石で補修。
須埼家は、江戸時代後期に砂川村八番組組頭を勤める13代続く旧家で、かつて質屋を営んでおり、内蔵の内材にはケヤキ材がふんだんに使用されており、質蔵の形態を良好に留めた建物として歴史的に評価される。(資料より)
今回、講師をしていただくのは、立川市文化財保護委員(建築史学)稲葉和也先生
稲葉先生は昭和記念公園こもれびの里「石井家の蔵」復元工事、その他、多摩地域や世田谷の古民家の復元工事に携わられました。
「砂川に建っていた3階建ての土蔵はとても珍しい。年代は江戸末期から明治初期、釘は和釘が使われている。内部はすべてケヤキの落としこみ、これも珍しいもの。質屋さんの蔵で、預かったものを守るために内部にケヤキが使われたと思われる。中に入って詳しく説明をします。」
同席された、立川文化財保護委員会会長 豊泉喜一氏のお話
「今回復元するのは須埼家の蔵、須埼名はこのあたりでは非常に多い、この蔵はこの地域では一番古くから須埼を名乗っていたお宅のもの、蔵が七つあったという話です。昭和20年の4月24日に、このあたり一帯は大爆撃を受けました。日立製作所のエンジン工場を狙った空襲のそれ弾がたくさん落ちた。この蔵はもともと土の蔵だったが、爆撃で壁が落ちてしまったので、戦後、蔵の外側は薄い大谷石を貼っていた。砂川は蔵の多い町ですが、3階建ての蔵は珍しく、コンビニの建設でこの蔵をつぶすことになったので、再建をしたいということから、工事が始まった。7つあったうちでも小さな方ですが、珍しいものですので、ゆっくりご覧ください。」
それでは工事現場に入ります。工事現場ですので、皆さんヘルメットを着用して内部に入ります。本来、この蔵は内蔵と言って主屋と直結していましたが、今回は外蔵として復元します。その為、ひさしも加えられました。
2階の漆喰塗装の様子を見学します。今回使われたのは「土佐塩焼漆喰」粒子が細かく、防火性、防水性に優れています。土蔵は、土壁だけでは乾燥してはがれる恐れがあるので、漆喰を塗ります。下地塗り、中塗り、上塗りを行います。
<外壁漆喰塗装ー参考ー>
①荒打②砂摺り③縦縄入れ・縄隠し④横縄入・縄隠し⑤大直し⑥小直し(下塗り)⑦中・上塗り
柱間の竹木舞に壁土を塗り付け、乾燥後、砂摺り、縄入れ、壁土塗りを複数回繰り返し、漆喰上塗りの前の下地を作っていきます。下地完成後にひび割れを補修し、漆喰仕上げを行う。
漆喰は、消石灰・砂・角又のり・藁や麻のすさを混ぜて作る。防火性に優れ、特に土佐漆喰は雨に強く、時間の経過とともに固くなる特徴がある。(資料より)
3階部分に上がりました。屋根の部分、この屋根は置屋根瓦葺です。
先ほどの置屋根の下には蔵の屋根があり、漆喰が塗られています。この漆喰の塗られた屋根と置き屋根の間には空間があります。これは火事などで屋根が焼けても蔵の屋根が燃えない様にする防火対策と、隙間が出来ることで、輻射熱を防ぐ効果があります。
1階に降りて、蔵の内部を見ます。内部は全てケヤキ材、できるだけ、元の木材を削るなどして使用しています。1階はギャラリーとして使います。
柱を建てて、上から板を落としこんで内部の壁をつくります。もともと使われていた木を参考に作ります。
窓は引き戸になっていて、戸車が使われます。以前は写真右の陶器の戸車が使われていたそうです。
今回使用された「土佐塩焼しっくい」粘り気があります。
この古民家園の蔵は平成28年春には竣工を予定しています。その時には、またお邪魔して完成した蔵を拝見したいと思います。
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