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インタビュー

確かに、そこにマイケルがいた!
日本一の映画館〈CINEMA・TWO〉だからできることサウンド・スペース・コンポーザー 井出祐昭さん

6月25日。
マイケル・ジャクソン ファンなら忘れられない日。
各地で在りし日のマイケルを偲ぶ。
CINEMA・TWO で上映された〈This is it〉ライブバージョン。
そこには確かにマイケルがいた。

なぜマイケルをよみがえらせることができたのか。

CINEMA・TWO の音響プロデュース、
井出祐昭氏にCINEMA・TWO を語ってもらう。

〈This is it〉ライブバージョン

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 総立ちになる観客の前に、確かにマイケルはいた。マイケルの靴音。リハーサルの歌声の後に、小さく漏れる吐息。スタッフに話すマイケルの言葉が、時にかすれ、時に躊躇し、時に笑いを含む。1つひとつの言葉が、音楽や雑音にかき消されることなく、はっきりと耳に届いてくる。

 音が澄んでいる。かつてないほどのボリュームだというのは、床が振動し、体に受ける衝撃でわかる。しかし、まったくうるさいと感じない。低音は足元に衝撃を感じ、腹に受ける音、額に受ける音と音階を体で感じる。大きいはずの音の海の中で、しっかりとマイケルの言葉を耳で聞く事ができたことは驚きだった。確かにそこにマイケルはいた。そう思っても不思議はない。マイケルファンでもないのに、自然に涙が流れてくる。

日本一の映画館〈CINEMA・TWO 〉の仕掛け

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 建物は、浮き床構造。部屋の中にもう1つ部屋を作ってある構造だ。レコーディングスタジオだと思えばいい。中の音は外に漏れず、外の音は中に影響しない。もうひとつの特徴。それは無駄な吸音をしていないこと。吸音すると耳が詰まった感じになって居心地が悪い。吸音しないと風呂場にいるように響き言葉がわからなくなる。そこで壁を斜めにした。壁面にぶつかった音を天井へ跳ね返し、広い天井面で吸音する。音の響きを少なくして、声がしっかり聞こえるように作ってあるということだ。

 そして音響面。一般に映画館ではスピーカーはスクリーンの裏に入っている。CINEMA・TWO はそれをスクリーンの横に出してしまった。それによって音が直接的に届く。スピーカーのレベルももちろん違う。映画館用のスピーカーではなく、スタジアムコンサートクラスのものを使う。軽自動車で時速100km出すのと大排気量の高級車で100km出すことを考えればわかりやすい。CINEMA・TWO では大きな音を出しても、観客に不快な思いをさせることなく、余裕すら感じるというわけだ。

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 最後のポイント。それはもともとシネマシティには音に対するカルチャーがあり、映写技師が音をよく理解しているということ。つまり外部の専門家が来て調整した音を、維持し再現できる技術者がいるということだ。ここが映画の街、立川ならではの粋。  井出祐昭氏自身、映画を見るときは立川へ足を運ぶという。

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 日本一音のいい映画館。それが立川にある。
映画の街、立川。映画を愛してやまない者の思いを具現すべく、それぞれのスペシャリストが集まってできあがったCINEMA・TWO 。
ここだからこそ、マイケルをよみがえらせることができた。自分がやりたかったことをそこに表してくれたCINEMA・TWO に、マイケルの魂が降りて来たのかもしれない。

井出祐昭という人

 サウンド スペース コンポーザー。目に見えない音をデザインしている。

 ソフトで柔らかい雰囲気だが、話し始めるとどんな人も巻き込んで行く。静かだが強いエネルギーを持っている。「マイケルみたいになりたいですね」と笑うが、実際その力はすごい。一緒に仕事をする人達の一番良いところを、150%発揮してもらって仕事のクオリティを上げるのだという。そのためには、本人も気づかない、その人ならではの良い点を見つけ出す訓練をしているのだそうだ。それは時に才能であったり、またキャラクターであったり。本人がいいと思っている点を主張すると個性がぶつかり合ってしまうが、本人も気がついていないその人なりの本当の良い部分はどんなに前面に出てきてもぶつかり合わないのだという。音の世界はそこに通じる。

 仕事の幅が広い。間口が広いだけでなく、音への関わり方が直接的だったり間接的だったり。主役は音だが、音を生み出した井出本人は、音を通して信じられないくらい多くの人と関わっている。JR新宿駅、渋谷駅の発車ベルシステム。10年経って、延べ地球人口の半分の人が聴いたことになる。万博でも2000万人。花博で500万人。表参道ヒルズの不思議な音空間を体験した人はもっと多いのではないだろうか。

 それだけに苦悩もあった。結果が見えにくい。レスポンスがわかりにくい。心地よいのが当たり前になった人々には、仕事を評価してもらえていないのではないか。しかし、最近それでもいいと思うようになった。誰がした仕事かわからなくても、そこに空気のように漂う、心地よさ、温かさ、言うならば「愛」のようなもの。それを人々が感じてくれれば、それでいい。「いつまでも自分の表現なんて言ってられないです。どこかで悟りを開いてしまわないと」と笑う。

 音を医療に使いたいと、アメリカの癌センターで3年間挑戦した。アメリカの医療現場の審査会を通り、実施できるまでは多くの修羅場を通らなければならなかった。「戦いですよ」とここでも笑顔。戦ってまでもやろうとするそのエネルギーはどこからくるのか? 「言葉にすると平べったくなっちゃって伝わりにくいのですが、一緒にやってくれる人たちの力と、喜んでもらいたいという思い、熱意かな。世の中がもっと楽しくなって欲しい、美しくなって欲しい。そんな思いかな」。

 会話をしているうちに、言葉が口ではなく心でやり取りしている感じがしてきた。「音は、ここで聴くんです」と手のひらを広げて胸をたたいた。言葉も音なのだと感じた瞬間だった。

 

井出祐昭 ( いでひろあき )

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サウンド・スペース・コンポーザー
ヤマハチーフプロデューサーを経て、エル・プロデュースを設立。音に関する最先端技術を駆使し、空間を総合的にプロデュースする。主な作品として、新宿・渋谷駅の発車ベル、NHKスペシャル『月山』、東京銀座資生堂ビル、愛知万博瀬戸愛知県館、表参道ヒルズ。またアメリカ最大の癌センターで音楽療法の臨床研究を行う。著書に、「見えないデザイン~サウンド・スペース・コンポーザーの仕事」(ヤマハミュージックメディア)
http://elproduce.com