インタビュー

日本一の納豆が出来るまで
菅谷食品(青梅市)有限会社菅谷食品 工場長 関本政英さん

日本が世界に誇る総合栄養食「納豆」。
その日本一を決めるコンクールで最優秀と評され、
農林水産大臣賞に輝いた、菅谷食品の「つるのこ納豆」。
昭和22年の創業以来、倦まず弛まず、日々、納豆菌と話しながら。
青梅の工場で、今日もおいしい納豆が造られます。
 

有限会社菅谷食品  工場長  関本政英さん

この度、お話を聞かせて下さったのは
工場長の関本さん。創業者 菅谷武松さんは、
関本さんの奥様の祖父にあたる方です。
義理の父である社長 高橋武男さんに
弟子入りして11年。
工場長としてはもちろん、
家伝の味を受け継ぐ使命感を持ち、
納豆造りに勤しんでいらっしゃいます。

>有限会社菅谷食品

「納豆鑑評会」とは

300社以上が加盟する「全国納豆協同組合連合会」
主催の審査会。
納豆の製造技術改善と品質の向上を目的に、
年に一度開催されます。
第20回、記念大会となる2015年は
納豆の聖地、茨城県水戸市で開かれました。

納豆のテッペンを目指して

鑑評会へは毎年出品していました。
でも、いつも1点足りないなど、
1位がとれなかった。
最優秀の納豆とどこが違うのか、
考えましたね。
今年は茨城が開催地ということで、
歯ごたえがしっかりしていた方が
いいんじゃないか、とか(笑) 
鑑評会の前は色々情報が飛び交って
いました。でも賞をとるためだけに
造るわけじゃない。
普段通り造って、評価されるのがやっぱり
一番うれしいですから。

納豆業界に精通する審査員が評価

鑑評会では、タレも辛子もつけない状態で
納豆を食べ、採点されます。
パックを開けた側が表、底面が裏。
表と裏が審査員にわかるようにお皿に置いて。
納豆菌がしっかり裏面にまでまわらないと、
酸素が底の方まで入らず、素豆の状態になって
しまう。表と裏、両面の状態を見ることで、
均一にちゃんと発酵しているかがわかるんです。
表面にはネバネバがついていますが、
1つの豆粒に対して白くきれいに、納豆菌が
かぶっているかなどを審査員は見ています。

他にも糸引きや糸の強さ、食感、味、
豆の形や色などを採点し、その年の1位が決まります。
受賞した後も、基本は変わりません。
ただ、より努力をしなきゃいけないなと。
スーパーなどで初めて試食されたお客様に、
これが1位なのかと思われないよう、
肝に銘じてやっています。

違うからこそおもしろい、十人十色の納豆造り。

納豆の発酵具合というのは、
数字で測れないところがあるんです。
同じ条件で蒸して、同じ量の納豆菌をかけていても
どこか違う。納豆菌気分というか(笑)
その日の機嫌によって変わってくるところは人間みたいです。
自分の目で見た感覚、結局は発酵担当者の
センスにかかっている。糸の強さや弱さは
造り手によって変わりますから。

大手の会社には数字で測るようなものが
あるのかもしれませんけど、それを我々が
真似したところで菅谷の味にはならない。
そこも一つ、菅谷食品が作る納豆の
特色かもしれません。
 

納豆の作り方は、納豆に聞く。

代表の高橋に納豆造りの弟子入りをした際、
言われたことが「まず、納豆菌と会話をしろ」と。
その時は、おもしろいことを言う人だなって。
でも納豆菌の気持ちになってみないと、
確かにおいしい納豆は造れない。
今日は、もうちょっとこうした方がいいかな、
納豆を見てるとなんとなくわかるんです。
じゃ明日はこうしてみよう、とか。
たとえば発酵不良があった時も納豆を見れば、
なぜそうなったのか原因を教えてくれたり。

社長 高橋武男さん(左)と。

一日の始まりは納豆への挨拶から。

「おはよう」「今日はどう?」
毎日気持ちを伝えていたんです。
5年くらい経った時、やっと納豆菌と
つながりあえたかなって時がありました。
夜中の2時頃、普通なら会社に行こうなんて
思いませんよね。でもハッと目が覚めて
「行かなきゃ」って衝動にかられた。
会社に着くと、ちょうどその時、発酵室に異常が
起きてて。納豆菌が教えてくれたんだなって。
たぶんそれが最初の会話だった気がします。

大阪のある御菓子問屋の社長も、
同じようなことを言われていました。
朝、必ず社員さんより早く起きて、
お菓子の倉庫に行くそうです。
「御菓子の皆さん、お早うございます。
今日もよろしくお願いいたします」
話しかけてから仕事を始めると。
うちの代表と同じような考え方をする方が
いらっしゃるんだなって。

その社長は御菓子があるからご飯が食べられる、
私は納豆があるから食べられる。
その感謝の気持ちを伝えるというのは、
当たり前のことだと思います。

必死なのは昔も、今も。

実は私、兵庫県生まれなんです。
今は関西の納豆売り場も、随分広くなりました。
私の両親も今でこそ食べますが
昔は納豆を買わなかったし、食卓に出なかったので、
食べられなかった。
家内と知り合った時、実家が納豆屋ということで、
さすがに食べないわけにはいかなくて(笑)
納豆ってタンパク源で筋肉にいいでしょう。
私はスポーツをしていたので食べてみたら、
おいしかった。

当時、納豆屋になろうとは、これっぽっちも
思ってなかったけど、食べられるように
なったのは菅谷の納豆。
それをずっと守っていきたいという想いが、
だんだん強くなって。
最初は何もわからない、必死でした。
今もそうですけど。

くじけることはあっても飽きない

息子がまた、納豆が好きで。
家族からは厳しいことも言われますよ。
家に納豆を持って帰ると「今日の豆かたいんじゃ
ないの」とか一端に言うんです、息子が。
ま、ちょっとムカッとくることもあるんですけど、気遣いなしの正直な意見。
家族だから言ってもらえる言葉だと。
仕事ですから、くじけることはあります。
でも納豆造りは飽きないですね。

「鑑評会」は来年もありますが、
これまで2連覇というのはないんです。
今までやってないことをやりたいという
気持ちは正直あります。
でも、これは運もありますから(笑)

納豆がどのように造られるのか、
製造工程に沿ってご紹介します!

[原料を保管]

原料となる大豆の保管倉庫は15℃に設定。
暖かくなると大豆の油分(養分)が出て、納豆菌のえさがなくなってしまうのだそう。

[洗浄・浸漬・蒸煮]

豆をこすり洗いし、水中ポンプで2階のタンク室まで吸い上げる。
大豆を一晩ほど水につける。
水を切ったら、蒸気をかけて下ゆでをし、蒸し上げていく。
時間になったら蒸気をとめて排出。納豆菌をかける。


蒸煮した大豆を取り出した
直後に、納豆菌を噴霧。

[発酵容器充填]

パックに入れてから発酵。業務用パックは、
老人ホーム、学校給食、病院などに出荷される。

50g入りの納豆パック、
1カップ30gの食べきり
タイプなど次々容器に。

納豆菌を使った石鹸や
化粧品が開発されるほど。
「納豆菌自体が肌にいい」
と関本工場長。

[発酵]

発酵容器に入れた大豆を発酵室で
じっくり寝かせ、発酵させる。
さらに、5℃以下の冷蔵庫で24時間以上熟成、
造り始めて4日目に出荷。


【容器が経木の場合】
大谷石の石室で炭火を用いて発酵させる。
遠赤外線効果により、旨味があって、
ふっくらまろやかな納豆に。


香りのいい赤松を削った経木入りの納豆。
江戸時代の納豆売りが、容器のかわりに
経木を使ったことが始まりとか。

昔の味を今に伝える伝統製法

せいろ蒸し

蒸気を下から上に、豆をやわらかく包みながら蒸しあげる製法。
発酵に必要な豆の養分とうまみをたっぷり残し、 ふっくらと蒸し上がるため、
風味豊かな納豆に。 昔と今の納豆との違いは、蒸し方にありました。

石室炭火造り

大谷石の石室(内部は総檜造り)で炭火を用いて発酵させる製法。
炭火、大谷石、檜から出る遠赤外線が煮豆を中からあたため、 納豆菌の働きを助けます。
また石室内部の檜が湿度の調整を適度に行い、 納豆本来の味をつくり出します。

つるのこ納豆
優秀賞を受賞した「つるのこ納豆」は菅谷食品の主力商品。社長 高橋武男さんの故郷、北海道の国産大豆を使って作られています。
鶴の卵のように大粒なことから「つるのこ」とネーミング。大粒の豆自体の味を楽しむ食べ方が一番おいしいと関本工場長。
タレではなくお塩をかけ、お酒のおつまみとして食べる人も多いそう。
「鑑評会」では2005年に特別賞を受賞。

せれぶでなっとう
ご飯以外の食事を楽しむ若い女性たちに納豆を食べてもらおうと、フレンチシェフとのコラボで生まれた新商品。
パン・パスタ・サラダに合う納豆で、チーズ・バジル・トマト味があります。

工場長がオススメする、納豆のこんな食べ方 !
①焼いたトーストの上に、マーガリンかバター塗る。
②タレだけをまぜた納豆をのせる。
③上からメイプルシロップをかけて食べる。
 カラメルソース風になって、とてもおいしいそう?