挑戦!見据えるのは世界
箱根駅伝予選会のヒーローから市民ランナーの星へ川内優輝さん
就職したばかりの頃だった。
何を語ってくれるのか。
箱根駅伝予選会で
学習院の応援に来た川内さんに
歩きながら話を聞いた。
(インタビュー翌日、ちばアクアラインマラソンでは
2位に10分以上の差をつけて優勝)
編集部
明日「ちばアクアラインマラソン」ということで、調子はどうですか?
川内
まあ、まだ上がり切っていないので。福岡があくまでも目標です。
編集部
今も本番がそのまま練習なんですね?
川内
はい。今までと同じようにやっています。まあ、3月(東京マラソン後)はやりにくい部分もあったんですが‥‥。
編集部
聞く所によると、東京マラソン直後は応援も多くあったけれど、バッシングも相当ひどかったとか。
川内
あの頃はもう、本当に‥‥。自分としては切り替えようとしたし、実績をみれば仕方のないことで‥‥。
編集部
大変だったわねぇ。
川内
記者会見を2度も開きましたからね。1度で勘弁して欲しかったんですけど。
編集部
どうして2度開くことになったんですか?
川内
取材が来過ぎちゃって納まりがつかなかったんです。
そのままやらないでいると、待ち伏せとかされかねなかったので。
編集部
川内人気はすごかったですものね。
今はマスコミの取材は?
川内
レースに関係ないのものはほとんど断っています。
編集部
自分では、当時オリンピックへの思いは?
川内
あのタイムを出せたらという憧れはありました。タイムが出なかったら、オリンピックに行ってもいい戦いはできないと思っていたので。僕は中本さんみたいに1人では走っていけないので(笑)。
編集部
学生の頃と、走っている顔が変わりましたね。自分が思っている以上に自信がついたのかな?
川内
そうですか?ありがとうございます。
川内
オリンピックに行かなかったおかげで、いろいろ自由に行けました。ドイツとオーストラリアとブルガリアですね。シドニーは僕の海外初優勝でした。今思うのは学生の時に海外旅行をもっとしておけばよかったなって(笑)
編集部
今は遠征、遠征?
川内
はい。遠征は海外旅行とちょっと違いますからね。エジプトへは1泊3日で行ってきます。着いた翌日にレースで、その日のうちに帰ってきます。
エジプト国際マラソンの招待選手として出場予定
編集部
それは大変だわ。仕事もあるのに。
もともと公務員希望だったんですか?
川内
そうですね。実業団に入ってもよかったんですけれど、実業団に入っても、3年くらいやって公務員になろうと思っていました。
編集部
それはなぜ?
川内
地域イベントとかに興味があって、旅行も好きでしたから観光政策とかやりたいなと思って。
編集部
今はマラソンのためとは言え、まったく違うジャンル(春日部高校職員)ですよね。
川内
違ったら違ったでやりがいはあります。教員とは違ったサポートができるのはいいです。
僕が入った頃、学校がちょうど改革しようという時で教頭先生とか、とても頑張っていて。
学校の雰囲気がすごく変わったんですよ。
編集部
その教頭先生、3月にお話させていただきました。大変だったあなたのことをとても気にかけていらして、「男同士、語ってみます」っておっしゃっていたけど、まだ語っていないんですか?
川内
教頭先生、異動になっちゃったんですよ~。
編集部
あら~。公務員として上を目指して行くか、それともタイムを追うか、そこはいずれ川内さん本人が決めなきゃならないことだっておっしゃっていましたよ。
川内
そうですね。まずは来年、モスクワの世界陸上をやってみて、ですね。
それで自信をつけてオリンピックが狙えそうならそうすればいいし、もう無理だなと思えば普通の市民ランナーで楽しく走り回ります。
そういう意味では引退がないっていいですよね。プロだと引退しなきゃならないから。
編集部
公務員として上を目指す道は?
川内
始めはそれも狙いたいと思っていたんですけど、今はもう少し陸上優先にしたいと思います。
あと5年くらいはいけそうな気がするので。
編集部
そうすると仕事が制約されるでしょ?
川内
そうなんです。今と同じ仕事をしていたら、出世コースからは外れますよね。
編集部
出世レースから降りちゃっていいんですか?優秀なのに。
川内
いえ(笑)。
陸上に一区切りつけてからどこまで挽回できるか。でも逆に言えば、出世はある程度挽回できますが、陸上は年齢がきたら挽回できませんから(笑)。挽回できる可能性って考えると、道は決って来ますよね。
この4年くらいで気持ちが変わりました。だからといって藤原(新)さんのようにプロになるとか、そういうことはありませんが。
編集部
そういう意味では、あなたの走りは人生そのものかな? 人についていって抜かす(笑)。
川内
ああ、走り方はそうですね。
ラストスパートに行くまでは誰かについて行った方が、うまくリズムも合って、力も蓄えられて、そこからバーンと行けるので。それがうまくできたのが、大学2年の時、初めての箱根予選会。15kmまでついていって、そこからドンと80人抜かしました。
編集部
気持ちよかったでしょ?
川内
気持ちいいですよ、一方的に抜かして行くというのは。
マラソンは粘っていれば、前から落ちてきますしね。僕にはそういうスタイルのマラソンが向いているんだと思います。あれが5000mだと、待っていても落ちてきませんから。
編集部
最近、マラソンに箱根で活躍した人が登場していますね。
川内
一時期箱根出身者の世界代表者が減ってましたけれど、藤原さんも中本(健太郎)さんも拓殖大学で走っていますからね‥‥。
編集部
あなたの場合は最初から箱根に出られないとわかっている学習院ですもの。
まずは予選会に出られなかったら選抜どころじゃない。
川内
そうですよ。本当に、あの時は(笑)。
前田君のタイムが‥なんてことありましたよね。
編集部
みんなのおかげですよね。
あなたのためにみんなも走ってくれた‥‥。
川内
箱根に行ける強豪校と立川で競り合うことができる、それが大事だっていう先輩もいました。だからそれぞれが自分のために走っています。
それでも、僕を選抜にと少しでも思ってくれたことはありがたいです。あのみんながいなかったら、今ここにいるかどうかもわからない。普通に公務員やっていたかもしれないです。
編集部
普通にと言うけど、公務員になるって大変なこと。
あなたは学生の時も今と同じように頑張っていた。
アルバイトしながら遠征費を稼いで、公務員試験も通って、で、ちゃんと毎日20km走ってね。
川内
アルバイト、しましたねぇ。ファストフードと派遣と。
派遣では「ああ、これが派遣の実態か」って思いましたね。
あ、この先で応援します。苦しくなっている時に応援してあげたいので。
編集部
応援の声はちゃんと聴こえるのですか?
川内
人が多いとやはりかき消されます。人が少ない所でドンとかけ声かけてもらうとよく聴こえますし、走っている時の心と一致した言葉は聴こえてきます。かけて欲しい言葉をかけてくれるといいですね。
編集部
そういう言葉がある?
川内
例えば前との差は何秒とか。1人でずっと走っていると、前も後ろもわからなくて自分がどこを走っているのかもわからなくなるんで。
今、スタートしましたね。間に合わなくなりそうだったら、僕、走りますから。
編集部
——どうぞどうぞ、私はあなたに追いつくとは思っていないから。川内さんのモチベーションって?
川内
いろいろ挑戦して広い世界を知りたいって、それだけです。せっかくここまできたから、挑戦して日本の陸上界を変えたい。
編集部
どう変えたい?
川内
やはり挑戦が許される環境に変えたいです。制約に縛られて挑戦できない人が多いので。
このレースに出たいと言っても、いやいやそれはもう少し力をつけてからとか、マラソンにもっといっぱい出たいと言っても、マラソンは1年に2回くらいが限度だとか。
ぼくみたいなめちゃくちゃな人がもっといていいのかなと思うんです。
あ、日体(日体大)がやっぱり強いですね。
このまま歩いていても間に合いますね。1kmを3分で走ってくると計算すれば、間に合います。
学習院はそれよりもっと遅いから‥、でも他の大学も見たいし(笑)。
今日は僕の一番下の弟も出ているんです。
編集部
川内さんは立川のコースをよく知っていますね。
川内
試走も含めたら数えきれないくらい来ていますから。
編集部
コース変わったんですよ、ご存知ですか?
川内
はい。僕は、外を長く走るより公園を2周した方がいいと思うんです。
記録が出るような平坦なコースを選ぶのでしょうけど、立川が好きな学生が多いのでレースを立川で維持するなら、やはり迷惑をかけないコース選びが必要だと思います。
アップダウンのある公園は波乱もあって面白いと思いますけどね。