インタビュー

光に出会う映画「おくりびと」原案者 青木新門氏
國學院大学 日本文化研究所 准教授 平藤喜久子氏

映画「おくりびと」原案者 青木新門さん。
立川市緑町にある応現院で、「第10回応現院文化講演会」終了後にお話をうかがった。
同席されたのは、國學院大学 日本文化研究所 准教授 平藤喜久子さん。

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青木新門氏(右)と平藤喜久子氏

編集部

すばらしい講演でしたね。お客様の反応もとてもよくて。

青木

よかったね。心が通じ合ってたもの、僕と。

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編集部

面白かったです。深い話を分かりやすく、落語みたいに話してくださって。

青木

情というものが心の底にあると通じるんですよ。
それはね数学者の岡潔さんが言ってたんです。日本人の基底には情というものがあって、数式や論理は手段に過ぎないと。湯川秀樹さんをして「天才」と言わしめた世界的数学者ですよね、岡さんは。
天才というのは少し変わったところがありますよね。天才は飛んでいる。今、馬の話をしていたかと思うと、牛の話をしたりね(笑)。

編集部

先生は納棺夫として、何体のご遺体を送られたのですか?

青木

10年で3000体。

編集部

それは、もう毎日みたいな世界ですね~。すごい。

青木

そうね。

編集部

今日は平藤先生もご一緒ですが、平藤先生、いかがですか?

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平藤

はい。日本は今仏教離れと言われています。
病院から直接火葬場へといった直葬も増えてきているなかで、東日本大震災が起きて、きちんと送ってあげられない悲しさということが報道されました。
仏教離れと言われている一方で、ちゃんと送るということをみんな考えたのだろうかと思ったんですが‥‥。

青木

僕ね、相馬で講演してきたんですよ。その時にその場で作った詩を朗読してきたんです。こっち側にいる人は、今あなたが言ったように「送ってあげられない」という思いを持っているけれど、亡くなった人はそうではないんだという話を僕はしてきたんですよ。

平藤

今日は、震災に関するこうした報道などを聞いて、先生がどんな風にお感じになったかを聞いてみたかったんです。

青木

これがその詩ね。

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「被災地へ贈る詩」
桜咲き 芽生える青葉 命は僕らのために
なんて美しい東北の春なんだろう
青い空 白い雲 豊かな海 僕らのために
なんて美しい三陸の海なんだろう
瓦礫の中に少年の笑顔
無縁社会も一夜のうちに
笑顔で交わす
ひとりでないよ
大きな悲しみ 和の心
大慈大悲は僕らのために
なんて美しい日本なんだろう
なんて美しい日本なんだろう

と、詠んで来ました。どういうことかというと、亡くなっていく人は瓦礫を見ていないんですよ。

編集部

う~ん。

青木

三陸の青い空とか豊かな海とか。残った人が瓦礫を見ているんです。
そこのところをね、亡くなった人が寒かったろうとか冷たかったろうとか、勝手な事を言わないで下さいということなんですね。

亡くなった人は、長くお世話になった人、お父さん、お母さん、ありがとうと言って亡くなっているんですよ。それを信じて下さいと話してきたんです。
ですからきちんと送ってあげられないとか葬式ができないとか、野菊一本立てるでも小石ひとつ置くんでもいいじゃないですか、と。
ゆとりができたら何でもすればいいんで、それを地震も何も起きていない所と比べて何もしていない何もできないと思うこと自体、おかしいとね。

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平藤

先生のこの相馬の現場でお作りになった詩は、遺された方の救いになっていますね。

青木

そうそう。亡くなった方をどうとらえるかで、遺った人の心が安心したり不安になったりする。
亡くなった方が地獄へ行ったと言われると、辛くなる。
でも、亡くなった方はあなたに「ありがとう」とにっこり微笑んで逝かれたんですよと言うと、安心してすっきりする。

編集部

先生、ひとつうかがいたいんですけれど。講演の中でも先生は最後の方で太宰治、川端康成、三島由紀夫などの自殺について触れられていましたが、家族に突然自殺されてしまった遺族は、「私が悪かったのではないか」とか「何を悩んでいたのだろう、わかってあげられなかった」とかとても悩むそうです。そういった遺族への救いについてはいかがでしょうか?

青木

‥‥あのね、それは難しい問題でね、
‥‥自分の愛する人とか自分が産んだ子どもとかを失った遺族の心を安らげるということは、とてもじゃないけど、なかなか。
仏陀でも苦しんだんですよ。

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編集部

そうですよね。

青木

それはもうね‥‥、その遺族の悲しみをじっと聞いてあげるしかない。遺族は自分で気づくしかない。
そういうことが書いてあるのが「観無量寿経」っていうの。
仏陀は最後まで一言も言わないで黙って聞いている。韋提希夫人というのがひとりで土下座してみたりいろいろするわけです。
で解決するのは宗教というか、光しかないわけです。

編集部

光ですね! 講演の中でもおっしゃった、ご本にも書かれていますね。

青木

光の世界に出会うということが真如に出会うということですよ。で、真如苑っていうんだね、ここは(笑)。

編集部

ありがとうございます(笑)。

青木

(お茶菓子のパンを指差して)パンがあるんだね。
「パンがなければケーキを食べればいい」と言ったのはマリー・アントワネット。

編集部

まったくいろいろなことをご存知ですねぇ。
博識というか、物知りというか、もうホントにすごい!

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青木

だからさっき言ったでしょ。
今、馬の話をしていたと思ったら、次は牛の話だって(笑)。
(一同爆笑)
頭の中がゴミ屋敷みたいになってるんだ。

編集部

天才の証拠ですね。あらゆる引き出しが開きっ放しになっている?

青木

そう、開けっ放し。だからね、牛が出てきたと思ったら次はマリーアントワネット。

編集部

(笑)畏れ入りました。それにしても、先生の話は普段なかなか聞けない話だから、本当に面白いし、聞きたくなりますよね。

平藤

頭で考えた「死」ではない「死」の話って聞けないですからね。お坊さんだって、頭で考えた「死」を話されるから。

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青木

戦後の既存宗教や学者は頭で考えて解釈する。だから観念なんですよ。仏教は語れるけれど、仏法は語れない。

平藤

なるほど。

青木

仏教というのは本当は仏法を伝える手段なんです。
作家も仏法は語れない。なぜかというと「人間親鸞」「人間蓮如」、人間ばっかり言ってる。言ってみれば阿弥陀さんを語るのに仏像を語っているようなもんですよ。

編集部

すっごくよくわかります。

青木

人間が邪魔して法が見えなくなる。

編集部

本当は法がわからないとか?

青木

法とは光なんですけどね。真如なんですけどね。

編集部

先生が光や真如をわかったのはいつからなんですか?

青木

それは僕が8歳の時に妹を捨てたその瞬間ですよ。でも、その時は小さいからそれが真如だとはわからなかった。あとからわかっていくんです。

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編集部

戦後のその、亡くなった妹さんを捨てなければならなかったというのも、すごい体験ですよね。

青木

出会いですよ。
妹の話も、講演で話した恋人の話も、ちょっと時間がズレたらすべてその瞬間には立ち会えなかった。
ですから何でも出会い。
「ウジが光って見えた」という文章を原稿に入れたから、19年前本木君と出会えたわけです。
あの文章を入れて、本木君がそれを読んだから、出会えて今がある。

編集部

その1行で映画化を考えるモックンもすごいですよね。

青木

うん。それともう1つ、本木君が私を尊敬しているのは、「必ずアカデミー賞とりますよ」って電話で言ったのが、ほんとに当たっちゃったから(笑)。
こっちは何の根拠もなしにいい加減に言っただけなのに、本当にとっちゃったからね。
(一同爆笑)

(2011年11月18日「応現院文化講演会」終了後のインタビューから)
☆2011年11月18日(金)に開催された「応現院文化講演会」が下記の予定で放送されます。

第10回応現院文化講演会 いのちのバトンタッチ -映画「おくりびと」に寄せて-
講師:青木新門氏

JCNプラスチャンネル(マイテレビ) 11ch 2012年1月23日(月)から1月29日(日)
22時00分~23時00分
スカパー! Ch.216 ベターライフチャンネル 2012年2月4日(土)、2月14日(火)
22時30分~23時30分