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インタビュー

最北端の街から南極へ
第52次南極地域観測隊 越冬庶務は稚内市職員市川正和氏

輸送・越冬庶務担当 市川正和さん

平成22年11月11日。
晴海埠頭から砕氷船しらせが出航した。
海上自衛隊の隊員と共に、
第52次南極地域観測隊から5人のメンバーが同乗。
その中に輸送・越冬庶務担当 市川正和さんがいた。
稚内市役所が日本のために送り込んだ精鋭だ!

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「蛍の光」流れる中、しらせ出航

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南極地域観測隊は毎年公募で隊員を募っている。
とは言っても、そこはプロの集団。誰でもいいわけではない。
気象のプロ、建築のプロ、車両のプロ、電気のプロ、医療のプロ‥‥。
その分化された間を取り持つ、つまり誰もやらない仕事を全部引き受けるのが庶務。その越冬庶務の重役を担うのが、この市川隊員。

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おかあさんと
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編集部

稚内市職員の身分のまま隊員になられていると聞いています。
稚内市役所も1年半職員がひとり減るというのは痛手ですよね?

市川

 きついです。他の隊員の皆さんは極地研から給料が出ていますが、僕は給料も稚内市から出ていますし。
それでも職員を出すだけの価値というのは、隊員として立川に来てみてわかりました。これだけのプロフェッショナルの中に身を置いて、自分も同じようにやっていかなければならない。地元で慣れた仕事をやっているのとは違い、立川に来てからの3ヶ月だけでも僕はかなり勉強させてもらっています。

本当の意味でのプロの集まりです。会社で言えば、社長、所長、部長それなりの頭になっている人たちです。その人たちと一緒に仕事をしていく時、自分のポジションだけでもしっかりこなさないと、その方達に失礼になります。
とは言っても、すべて初めてのことばかり‥‥。僕は聞くのもやるのも初めてのことで素人すぎる。それでも必死に食らいつこうとしているから、かなり自分としてのグレードは上がっていると思います。
 誰もやらない仕事は全部庶務の仕事。「これ誰がやるの?」って聞かれるし、聞かれるということは「お前がやれ」っていうことです。僕は何でも屋だから、すごくはない。すごくはないけど、昨日も気づいたら朝になっててみんな来ちゃったみたいな(笑)。

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編集部

稚内市役所では何をなさっていたのですか? またどうして応募されたのでしょう?

市川

 僕、教育委員会なんです。13年間文化ホールにいて、舞台と音響ですね。次の2年はミュージカルを作ったり。その後社会教育課に異動して文化系の仕事をしていました。
その社会教育課に第46次で行った人が直属の上司にいて、「南極はいいぞ~、南極はいいぞ~」って。ですから自分としては洗脳されたような(笑)。
ですから公募があった時「行くよな?」って言われて「はい」って。そうなりますよ。それはやっぱりずっと話をきいていれば、実際に見てみたいなという気にはなります。話だけではなかなか伝わらない。
「そうなんだ~」って聞いていますが、「きっとこうなんだろう」とか「たぶんこうだろう」みたいな範疇をでることはなかった。だから実際に見てみようかなと思ったんです。そして自分で体験してきて、その自分の考えていた枠を越えたものがあったら、それを他人に伝えられるかどうか試してみたい。もう2度とないチャンスですから。

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(中央)市川隊員、(市川さん左)横田耕一稚内市長
(市川さん右)市川隊員のお母様
(写真左から2人目)手島孝通稚内市教育委員会 教育長

編集部

気が早いですけれど、南極から帰って、スキルアップした市川さんは何のお仕事をしたいですか?

市川

 戻ったとたんにもう仕事はあるって言われているんですが(笑)。いや、同じ場所に戻る保証はないですけれど、それでも良いのかなっていう気はしています。
というのは稚内には科学館があって、それを南極に特化しようという話もある。だとしたらそこで経験を生かせたらもっといいと思うんです。もちろん広く子どもからお年寄りまでを対象にいろいろなところで話をして伝えていくのもいい。でも極地研に来て、極地研の科学館を見て改めてわかったことがたくさんあります。南極の経験のない人がなんとなくのイメージで展示レイアウトを考えてしまうと、何か違和感を覚えたりするものですが、そんなところできちんと南極をわかった上で役にたてればいいんじゃないかと。

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 稚内の子どもたちは、たぶんよその地域の子どもたちよりも「南極」という言葉に違和感なく入っていける。稚内と南極との関わりはもう50年ですから。「南極音頭」「みなと南極まつり」、「南極ハイランド」‥‥。南極の位置ははっきりわからなくても、南極という単語はスッと受け入れる。自然、厳しい自然ですが、自然だけはよそに負けないという自負もあって、南極とか自然とか、その辺に興味もっていこうよと話していけます。3000人ほどの小中学生が本気で南極を知っていったら、たぶんすごいことになります。

 僕はみんなが南極のことを知った方がいいと思います。南極がどういうところなのか、話を聞かなかったら、僕自身なめていたかもしれません。稚内では風速20~30mの風は普通に吹きます。ホワイトアウトもあるし。だから南極も「ああ、そのくらいか」って数字を見てなめてかかったら、南極では死んでしまいます。聞けば聞くほど、なめてはいけないと。間違ったらやり直せばいいという気持ちでいったら、いきなり死ぬかもしれないと。今は行く前に話していますが、経験するのとしないのとでは全く違いますよね。しかも相手が南極ですから、すごく楽しみですね!

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上段左から3人目が市川さん
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11月11日 快晴の晴海埠頭で (クリックすると拡大画像をご覧いただけます。)