日本有数の短冊展示「鉄心斎文庫 短冊文華展」
アカデミックたちかわ――国文学研究資料館国文学研究資料館 研究部 教授 鈴木 淳氏、 助教 入口敦志氏
大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国文学研究資料館
研究部 鈴木 淳 さん・入口 敦志 さん
国文学研究資料館 研究部 教授
鈴木 淳さん |
国文学研究資料館 研究部 助教
入口 敦志さん |
国文学研究資料館の展示室で
平成二十二年十月四日(月)から十一月十二日(金)まで、
国文学研究資料館 特別展示 「鉄心斎文庫 短冊文華展」が開催される。
短冊だけの展示は非常に珍しく、鉄心斎文庫のコレクションとなると、
おそらく今後はもう開催されないだろうという展示だ。
そもそも鉄心斎文庫とはなんなのか、鈴木先生と入口先生にきいた。
編集部
このチラシを見ると、歌などになじみのない者にはなんだか難しそうだな~という感じを受けてしまいますが、まずは「鉄心斎文庫とは」から説明してもらえますか?
鈴木
チラシにも書いてありますが、鉄心斎文庫というのは東京都品川区にある個人文庫で、三和デッキ株式会社社長だった芦澤新二氏が創設した個人古典の一大コレクションです。鉄道に関係していたから鉄とつけたということですが。
伊勢物語の写本や版本がそれぞれ四百点以上、またその注釈書の写本や版本がそれぞれ百点以上あり、伊勢物語の掛け軸や屏風、かるた、浮世絵、工芸品などが千点以上あって、伊勢物語コレクションとして有名です。
編集部
個人で集められたのですか?
短冊・
後柏原院 |
短冊・
山崎宗鑑 |
短冊・
上田秋成 |
鈴木
ええ、そうです。でもコレクションというのはそういうものです。短冊も六千点くらいありますか。
編集部
今回はその短冊の展示なのだそうですね。六千点全部ではないですよね?
鈴木
そこから厳選して二百点くらいの展示です。
編集部
どうやって厳選されたのですか?
鈴木
作者が有名であったり、能筆なものとか。
編集部
私たちがわかるような有名なものって、例えばどんなものでしょう。
入口
チラシにあるように、吉田兼好とか。
編集部
ああ、吉田兼好ならわかります。でも、読めないですよね(笑)。どうやって鑑賞すればいいのですか? この展示の楽しみ方を教えてください。
入口
まず字を楽しんでいただくのが一つです。
この人はこんな字を書くのかという。
能筆家と言われた人もいますから、まず字を楽しんでいただいて、それから紙ですね、和紙。
元は懐紙ですが、それを歌会のために細く短冊にして使っているわけです。ですから時代によって紙が変わってくる。
最初は懐紙ですが、それを二つに折れば「折紙」、切れば「切紙」、真四角に切れば「色紙」と言った具合に紙もいろいろな形になっていますが、ここでは短冊を時代ごとに楽しめる展示になります。
編集部
紙を鑑賞するっていうのはおもしろそうですね。
入口
はい。短冊の歴史は鎌倉時代からですから六百年。同じ形式の中にも違いがあります。
まず大きさが違う。装飾も違う。古い時代は装飾がない白短冊ですね。それが見せるためのものになり、装飾がほどこされてきます。
たとえばこれは打曇りといいますが、このような模様が入ってきたり、またこちらのように下絵が入るものもあります。
編集部
紙を楽しむっていうのはできそうな気がします。書かれてある文字がなかなか読めない。読めなくてもいいとおっしゃる先生もいらっしゃいますが。
鈴木
それは、やっぱり読めた方がいいです。
編集部
今西館長も日本人の教養として読めた方がいいというお考えですよね。
鈴木
ええ。この吉田兼好の歌も読んでみると、風景をそのまま切り取って詠んでいるとわかります。
編集部
なるほど。でも、読めない現代人のために、こちらで講座とか開かれたらいかがでしょう。
入口
夏に子ども見学デーという企画を行っていて、昨年私はその担当だったのですが、同じ日本語ですから、小学生のお子さんたちでも、わかりそうな字をまず見つけてパズルのように読める字から類推して読んで行くと読めてしまうんです。ですから、それほど難しいことでもないと思います。
編集部
入口先生はお話していらしても、こうしてこのお仕事に携わっていらっしゃることが楽しそうですね。
入口
楽しいですね。私は昔「新八犬伝」という人形劇をテレビで見て、それから古典に興味を持つようになって、この方面に進んできましたから。
編集部
でもお好きだと言っても、この図録や本の校正は大変でしょう?
入口
大変です(笑)。
編集部
文字校正って、書いた本人はなかなかミスが見つけられないんですよね。
入口
こういうお仕事をされているからおわかりでしょうが、そうなんです。自分ではもうそのつもりになって書いていますので、見過ごしてしまうんです。
編集部
他人の目が入らないとできないですよね。大変なお仕事だなあと思います。鈴木先生も古典がもともとお好きだったのですか?
鈴木
いや、日本文学はやりたくなかったのだけれど、受験の関係でこうなったというか。
編集部
え?(笑)では本当は何がやりたかったのですか?
鈴木
西洋文学の方に親しみを持っていました。でも今になってみると日本文学をやって良かったかなと思いますが。
編集部
私は西洋文学が専門でしたが、国文研に通わせていただいて国文学っていいなあって思っています。この展示は短冊だけですから、見応えがあるといえばあるけれど、展示方法がむずかしそうですね。どうやって展示するのですか?
鈴木
う~ん。まずは時代で。
編集部
全部、かがんで観るケースだと単調ですよね。
鈴木
もちろん掛け軸になっているものは壁面を使いますが、それ以外にも今回は別のケースを入れて、立った目線で見られるようにもしたいですね。
編集部
文学という枠と美術という枠とで構成された展示のようですね。
鈴木
そうですね。ただ書家の方に関心をもってもらえるのではないかと思っています。詩と書とが一体化した美の世界ですね。
編集部
実に雅な世界ですね~。静とか寂とかという。
鈴木
南北朝時代から江戸時代、明治時代までの美を短冊という形で表現した展示ですから。
編集部
短冊だけの展示というのは珍しいそうですが。
鈴木
そうですね。たぶん今後はもうこんなに一斉に揃う展示はないでしょう。 もちろん別の企画に合わせて何点か展示されることはあっても、こうして短冊だけで構成された展示は多分もうないと思います。
編集部
それを立川でやってくださるのですから、見なかったらすごく損ですね。
鈴木
会期中に鉄心斎文庫の現在の文庫長である芦澤美佐子さんが来館されます。
編集部
講演会があるそうですね。
入口
十月十五日(金)午後二時から、芦澤美佐子さんのご挨拶の後、鈴木先生ともうお一方の講演があります。短冊のことがもっとよくわかってくると思いますよ。
講演会情報
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