立川のサッカークラブさいわいFC 代表 土方一成氏
やさしく心をつかんだと思ったら“ゲキ”が飛ぶ。
コワイだけじゃなく、笑いもたっぷり。
「さいわいFC」のお母さん方からも信頼される、
土方先生は根っからのスポーツマン。
「ただホメて伸ばすタイプじゃない」と評価される指導は、
常に大人と子供の真剣勝負に成り立っている。
さいわいFC 代表 土方一成さん
立川市砂川出身。山梨県の高校に進み、高校1年から大学4年までは空手の選手。県大会で優勝、全国団体戦で準優勝の経験も。土方氏の実家である「立川かしの木幼稚園」をはじめ、これまで100ヶ所以上の幼稚園・保育園で講師を務める。NPO法人リナシャンテ理事長、立川市体育協会理事、立川市サッカー協会副会長、さいわいFC 代表、立川市空手連盟理事他、数々の役を兼任。
現在サッカーをはじめ、空手・アイススケート・水泳・スキー・体操など様々なスポーツ教室の講師としても活躍中。 |
箸にも棒にもかからないくらいヘタ。
チームを作って2年間は、一度も勝てなかった。
Jリーグが開幕した翌年あたり。今から21年前のこと。
サッカーをやりたいって子が、かしの木に結構いたんです。
その頃の私、体操は教えていたけれど、サッカーのサの字も知らなくて。
以前いた会社でサッカーを教えてたコーチを呼んで、一緒に教え始めました。
最初は彼が教えて、私がアシスタント。
知識がなくても、そのコーチの真似しながら教えていればいいやという感じで。
でも彼が一年で辞めて、私が主で教えなきゃならなくなった。
そこからです。色々な本を読んだり、テレビやビデオを観て研究したり。
でもやっぱり、自分一人の知識では足りない。
そこで当時東京でイチバンだった東海大菅生卒の大学生コーチを呼んで。
「ここはどう? 子供たちの動き、合ってる? 中がいいの? 外がいいの?」
一応、私が教えてはいたけれど、そのコーチに毎回マンツーマンで確認して。
他にも、東京で1、2位のチームの教え方を学んだりしました。
3ヶ月間は何も言わずに子供を見る。
今、私が「さいわい」でサッカーを教えているのは、幼児と小学校低学年だけなんです。
まず3ヶ月はなんにも言わない。
シュート練習をしたり、ゲームをしたり。
「ああ、いいシュートだね」とか言って、4・5・6月の間はずっと見てます。
3ヶ月ぐらい見てると、その子の特性がわかってくる。
よく話が聞ける子だ。話は聞けないけど、足がすごく速い。
キックが強いな、 自分が中心でなくちゃイヤな子なんだ… 色々見ていきながら、7月になってポジションを決めます。
そこからが始まり。
その時、保護者の方に言うことがあって。
「一年間のうちに必ずこの子たちを優勝させますから、私の言う通りについてきてください」と。 今まで優勝出来なかった学年というのは1、2回。 少なくとも各学年のうちに1回、優勝する子は全部の大会で優勝していました。
幼児が勝つために大事なことは、
役割を意識させること。
普通に子供たちがするサッカーと我々が違うのは、必ず役割(ポジション)を持たせるところ。
トップだったら、前の球を拾ってシュート打つ。その仕事だけはしっかりしましょうと。
バックはとにかくシュートを打たせない。
幼児の段階で勝つには、自分の役割をちゃんと果たす、それが一つ大事なことなんです。
大体のチームはダンゴ状態になって、ワーッといく。なんにも教えなければそうなります。
また、大体の指導者が「それでいい、それでいい」と言う。
ボールを持つ中心的な子はいつも決まっていて、それ以外の子はくっついてるだけ。
そのプレイでいいわけがない。
男の子にはビシビシ言えても、
女の子に厳しいこととか言えなさそうで…。
子供達には、どうやってやれば点が入るのかを教えます。
キーパーがいるところにまっすぐ 蹴っても点が入らない。
球を一回サイドにパスすることで キーパーがずれ、スペースが出来る。
そこで リターンした球を逆サイドから来た選手が打つ。
これがうちの一つの形なんですけど。
球をサイドに出して、サイドから打つっていうのを小さな子供、ましてや園児にはなかなか教えられないんです。
試合中、私はずっとノートをとっている。
今のプレイがどうだった。 身体の向きがよかった、そっちじゃいけないんだとか。
一人ひとりにコメントが出せるように。
理解している子は、説明してすぐ理解してくれるんですけど。
幼いほど、わからないでプレイしてしまうものだから。
子供は、大人と同じような考え方を持った一人の人間。
なめちゃいけない。
知識はやっぱり使わせたい。考えさせたいんです。
子供たちがプレイした時「今、何やったの?」って。
自分がするプレイに対して、ちゃんと意思をもって失敗するならいいんです。
人間て、気持ちで違ってきますよね。
小学生のうちは体力的にもそんなに大差はない。必死になれば。
試合の前に、子供が「よしやってやるぞ」って、気持ちを高くしてあげることが大切なんです。
私の場合、試合が終わったら次の試合まで保護者のもとに行かせない。
高まっている気持ちを持続できるように。
次の試合まで30分、40分あるとしたら、私のもとでミーティングして、すぐに身体を動かしに行く。 保護者のもとに返すと緊張がきれちゃうんです。 そうすると、その意識を作っていくまでに また時間がかかる。
でも、お昼の時間だけは帰すんです(苦笑)
「食べ過ぎないで」って言いながら。
お腹がふくれると運動量はガクッと落ちるし、ボールを奪いに行く姿勢も落ちちゃう。
アメとかチョコとか食べ始めると、ああ終わったな…って。
やっぱり勝ちたい !
スポーツをやる以上は、勝負にこだわる。
リーグ戦て何が起こるかわからないんです。
だから1点でも多くとらなくちゃいけない。とれるなら10点でも20点でも。
何点か取ったからいいやではなくて。
もし自分たちが一度でも引き分けたら得失点ってことになる。
今まで、得失点差で泣いた経験は多々あることで。
結局、勝負って、感じるんですよね。
試合中にもこの流れまずいな、この1本が !って時に入れられる。
逆に9割押されてても、1本のコーナーキックで「あ、これ入るわ」。
案の定、ポーンと蹴って頭で合わせて1点とって勝っちゃう。
競技に携わっていた者の勘なのか、大体読めてしまうんです。
今の子たち、他人から怒られることがなくなってきていますよね。
言われたことに対して最初は委縮したとしても、だんだん慣れてくる(笑)。
「まだ幼稚園だし、そこまで…」と思うことがあったとしても、子供は精神的にも強くなっていて。
先生は、ポジション一つとっても、一人ひとりの性格などをよく見られているなと思います。
三男ですが、副主将としてみんなを引っ張っていかなきゃと動いている。こんな一面もあったんだと…。[濱野さん]
一人で遊ぶのが好きだったのがチーム一丸となってすることで、一人からみんなへ。協調性も生まれ、周りが見られるようになってきたと感じます。[竹内さん]
濱野さん(右)と竹内さん(左)
すべての運動は、メカニズムの解明から。
子供に何か教える時、怒鳴ったりするのは、自分が教えられないからなんです。
上手く伝わらないことに対して怒ってるのであって。
結局、体操の技術でもなんでも、 メカニズムの解明が 大切なんですね。
私は、組体操を子供の時にしたことがなかった。で、組体操を授業で教える時、うまく伝えられなくて。
「先生、鬼になる」ってよく言われました(笑)
いきなりやらせるから出来ないんだと、ある時気づいて。
子供って「出来ないよな」っていうと頑張るんです。
「小さい子に、大人を支えたり出来ないよなぁ」って話術でダマして。
そしたら子供たち「出来る!出来る!」。
でもいきなり乗ると、みんな崩れちゃう。
土台づくりをしっかりして、均等に体重をかけながら静かに乗ってあげたら大人でも、簡単に支えられるんです。
跳び箱もそう。なぜ飛べないかというと、着手した手より肩が残っているから。
すべての運動は、理にかなっていて。
その解明さえ出来ていれば、そんなに難しいことじゃないんですね。
日々、反省。
何回やっても、100%の授業って絶対できない。
30年前、この仕事を始めた時、やり方なんて誰も教えてくれなかった。
先輩達も自分の得意技はやはり教えないもので。
だから盗まなきゃいけなかったんです。
同じことを教えるにも、先生によって全く違うことをする。
人の指導を見ることは、すごく勉強になりました。
今も日々、反省。
何回やっても100%の授業って絶対できない。
ああやっとけばよかった。次の日どうしようかな。
なんにも考えなくても次の日の授業は出来る。
でもそれはすごく失礼だと思うんです。
若い先生に多いんですが、何も考えずに来て「どうしよう」って。
やっぱりしっかり準備が必要だと。
嫌いなものでも、
好きな人が教えてくれたら興味をもてる。
出来上がった人間を教える、というのも大変ですけど。
私たちはある意味、一生を左右する立場にある。
私たちの言葉がけとか、 子供たちに何を教えるか
によって一生が変わってしまう。
好きになるのも嫌いになるのも私たち次第なんです。
とにかく嫌いにしちゃいけない。
嫌いなものでも、好きな人が教えてくれたら興味をもてる。
まず私たちを好きになってもらうことから。
先生の言う通りにしたら出来るとか、怖くないとか。
そういう信頼関係がすごく大切だと。
毎年何かしようと思う。
今年は、自転車で白馬が目標。
一昨年、その前は本を書こう、会社を作ろう…
そして今年は、年末に買った自転車を頑張る。
自転車の仲間から、白馬へ行こうと誘われているんです。白馬まで250kmくらいあるのかな。
みんな一日200km走るって言っていますから。
最近は1時間半で35kmほど、出来るだけ走るようにしています。
子供の頃からジッとしていられないんです。
「ただいま~」ってカバンを投げたら、晩ごはんまで帰ってこない。鉄砲玉です(笑)
いつも好きなことを、好きなようにやっている。
サッカー教えるのも、サッカーが好きだから。
自転車に乗るのもそう。
好きだからこの仕事を続けていますし。
色々ね、考えるのがすごく楽しいんです。
サッカーにしろ、空手にしろ、体操にしろ、見ている子たちの大体の能力を把握しますよね。
そしたら、この子をあてはめた時どういうプレイになっていくのかなって、あれこれシュミレーションをしたり。
この子と入れ替えたらどうなるだろうとか。
もちろん幼児や低学年なんで、思った通り動けないんですけど。
家でワインを飲みながら、 メモに書いて作戦練ってるんですよ。
そういう一人の時間がすごくよくて(笑)
※記事の内容は掲載時のものです
by T.I