誰に何をいわれようとも信念を貫き、コツコツと積みかさねられる姿に、いぶし銀の魅力をはなつ人たち。その「…とある一日」を追いました。
手づくりパン・マニシェール
佐藤利雄さん 久美子さんの、とある一日。
立川市砂川町。路地が入り組む住宅地に、朝まだ町が寝静まっている時間から、たんたんと開店準備を進めているのは、佐藤利雄さん。
お世辞にも人が集まるような場所とは言えない、見過ごしてしまいそうな通り沿いにお店をかまえて、今年(2024年)43年目を迎えた「手づくりパン・マニシェール」のオーナーです。
コロナ禍を越え、さらには小麦をはじめとした原料が高騰する中にあっても、これまで作り培ってきたノウハウから、独創的なパンのラインナップと、バラエティー豊かな味わいは、先入観を裏切り、舌の肥えた常連客をうならせつづけます。
日替わりのおすすめ品が1、2種類。その他、店内をいろどるパンの種類や数量は、その日の天候や地域性を鑑みて、売り切れるだけを見定めます。
粉(コムギやライムギ)の温度。粉に混ぜる水の温度、発酵させる室内の温度など、その時のコンディションで微妙にかわる生地の、絶妙なタイミングを読みとり、寝かせる(発酵させる)時間をコントロールしながらの作業は、常に時間との勝負。この日も既に5時間が過ぎ、開店を迎える頃になっても、腰かける間もなく作業の手はとまりません。
「パン屋なんてさ、ただコネて、寝かせて、焼くだけ。それを毎日繰り返してるだけだよ」と楽し気に笑う佐藤さん。わずか2、300円の商品をつくるために、人知れずの努力を何年も続けているからか、佐藤さんの眼差しには、慈しみがやどったような温かさを感じます。
そして奥様の久美子さんが、毎月発行している「日替わりBREADメニュー」は、「マニシェール」の魅力を伝える人気定期発行物。その年の干支をモチーフに、季節感を取り入れながら、挿絵から配色、レイアウトまでを描きつづけて、今年(2024年)でちょうど20周年を迎えました。
「20周年といっても(利雄さんが作る)パンがあってのことだから」と、久美子さんもまた、土台に徹する内助の功が光ります。
「BREADメニュー」は、お店のスタッフが手分けして周辺地域にポスティング。店内はカウンターや陳列ケースなども、DIYでハンドメイド。そして、佳節を迎えた自身の取り組みが、縁起ものの辰年とかさなり「運気あがるかな~♪」と、冗談めかす久美子さんの明るいキャラクター。そのすべての思いや人柄が一つに揃う「マニシェール」は、まさに「和をもって貴しとなす」を、体現しているお店。だからこそ、多くの人を魅了するチカラを秘めていることを、学ばせていただけました。